映画のプロがおすすめ!見所解説

立田敦子Atsuko Tatsuta
映画ジャーナリスト

大都会には、成功を夢見る人々だけでなく、喧騒に紛れ込んでつつましく生きたいと思う人も多くいる。
デンマーク出身のロネ・シェルフィグは、“よそ者”ならではの視点で、
そんな痛みを抱えた人々を温かく見つめ、そっと寄り添う。
現実主義者にとってはおとぎ話に見えるかもしれないが、マジカルシティ・ニューヨークなら、それも起こりうるだろう。
「分断」により世界が傷ついている今こそ、こんな優しい力強い“おとぎ話”は必要なのだ。

森 直人Naoto Mori
映画評論家

この映画の原題“The Kindness of Strangers”は、エリア・カザン監督が映画化した戯曲『欲望という名の電車』で
高慢なブランチが放つ有名な台詞“I’ve always depended on the kindness of strangers”
(私、いつも見ず知らずの方々の親切に頼ってきましたの)を連想させる。
ただしあの作品ではシニカルに使われていた「見ず知らずの方々の親切」が、本作ではまさしく希望の光となるのだ。
例えばロシア料理店のピアノの下に隠れていたクララ(演じるのはカザン監督の孫娘、ゾーイ・カザン!)と
長男アンソニーに、マークがそっと食事を運ぶくだり。
厳しい現実を生きる眼の前の人に黙って手を差し伸べる……。
本作の愛のかたちを象徴する美しいシーンだ。

よしひろまさみちMasamichi Yoshihiro
ライター・編集者

タイトルから受ける印象と、観賞後の印象はガラリと変わるのがこの作品。
なんとなくほんのりとした人情ドラマが展開されると思いきや、描かれる人間模様はあけすけで辛辣だ。
でも、クララたちに救いの手を差し伸べようとする人々のやさしさ……いや、お節介焼きともいうほどの親切心に、
多民族が肩を寄せ合って暮らすニューヨークの素晴らしさを再確認させられる。
世間体を気にしすぎて、個と他の溝がどんどん深まっている今の日本で観るにふさわしい人生再生劇だ。

(敬称略/順不同)

特別映像

特別映像1
マーク役/タハール・ラヒム
インタビュー映像
特別映像2
ティモフェイ役/ビル・ナイ
インタビュー映像
特別映像3
ジェフ役/ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ
インタビュー映像
特別映像4
クララ役/ゾーイ・カザンインタビュー映像